EPAで帰国したインドネシア人看護師の意識調査
-帰国後の就労状況に関して-

公益財団法人日本アジア医療看護育成会 小笠原 広実

 日本の看護師国家試験に合格・不合格に関わらず、帰国しインドネシアで就職をする看護師が大勢いる。インドネシア帰国後の状況は統計もなく、全体が見えない。日本で看護を見てきた看護師たちには、母国で、ぜひその経験を生かしてほしいと願うが、多くは看護師ではなく、日本企業などに就職していると聞いていた。今回、少人数ではあるが、帰国した看護師が集まる機会を得たのでアンケート調査を行った。17名の回答を得たので、報告する。

 平均年齢は31.86歳(未記入3名あり)であり、28歳から44歳であった。男性3名女性14名。D3(3年生課程)卒業は14名、S1(4年生課程+病院実習1年)卒業は3名。EPAで看護師候補として参加は11名、介護福祉士候補としての参加は6名であった。国家試験に合格した者は、看護師3名、介護福祉士4名であり、看護師は合格後全員が就労しており、2年から3年就労後に帰国。介護福祉士は、就労したのは1名のみで、1年の就労であった。実施日は、2015年10月25日および11月22日のJAMNA看護セミナー開催時であった。

 インドネシア語の自由記載で得た回答は、その性質ごとに類別化し、表の左欄に共通性をとり出しカテゴリーとして記し、右欄には記述された文の日本語訳を記入した。

1.日本に行く前に期待・希望していたことはなんですか?

カテゴリー記述の日本語訳
日本の看護について学びたい
  • 特に看護の分野の技術について知りたかった。
  • 違う文化の中での患者への看護を学びたかった。
  • 日本の看護の技術を学びたかった
  • 日本の病院の看護システムを体験したかった。
  • 日本の看護システムを学びたかった。
  • インドネシアでは得ることのできない新しい看護の知識を学びたかった。
  • 日本の仕事や知識を体験したかった
  • 日本で新しい看護の体験をしたかった。
  • 新しい看護について学びたかった
  • 日本で看護を学びたかった
新しい体験への期待から
  • 家族から離れて、新しい体験をしたかった
  • 日本で仕事の体験をしたかった
  • 外国の生活を体験したかった
  • 新しい体験をしたかった
日本語が習得できることへの期待から
  • 日本語を話せるようになって、美しい日本の街を見たかった。
  • 日本語と日本の習慣などを学びたかった。
  • 日本語が上手に話せるようになりたかった
自分のキャリアアップの希望から
  • 日本で患者への看護を上達したかった。
  • 経験を積みたかった。
  • 国家試験の勉強をする
  • 日本の看護師として働きたかった
  • 国家試験に受かりたかった
  • 日本の看護師になりたかった
高い給料を得ることの期待から
  • よい高い給料を得たかった

2.日本での経験は、自分の希望と合っていましたか

「合っていた」 8名
「あまり合っていなかった」 8名
「合っていなかった」 1名

看護師として働き、日本の看護の知識を得たいという高い目標を持って日本に行った人は、「あまり合っていなかった」「合っていなかった」と答えている。

3.日本に行く前に期待・希望していたことと、実際の違いは何でしたか?

カテゴリー 記述の日本語訳
思っていたより(勉強・仕事が)大変だった
  • もっと簡単に仕事や勉強ができると思っていたが大変だった。特に漢字が大変だった
  • 一人で入院している患者が多く、仕事がとても大変だった。入院から退院まで、ずっと注意をはらわなければならなかった。
  • 労働内容や時間がより多い。すべてのことを、看護師と医療チームが責任を持っている
  • 日本の仕事は、インドネシアに比べて、とても疲れた。
期待した内容の看護行為ができなかった
  • 直接患者に接したかったが、助手としての仕事だけしかできなかった。
  • 高齢者のお世話をしなければいけないということに限られた特別な人材であった。
  • 病院での仕事の内容が異なっていた
    ・とても限られた看護行為しかできなかった
  • 国家試験に合格できなかったので、看護師の仕事ができなかった
  • 違いがたくさんあった。インドネシアでは看護師経験を3年してから日本に行ったが、看護師の行為ができなかった。
看護の違いを感じ学びもあった
  • 仕事への姿勢や仕事のシステムが違った
  • 違いは大きかったが、得たものも多く、日本で体験できたことはとてもうれしく思っている
事前の情報の思い違いがあった
  • 看護と介護は同じと思っていたが違っていた(介護福祉士候補)
  • 病院で働きたかったが、老人施設だった
あまり違いはなかった
  • 期待とそれほど違いはなかった。(介護福祉士候補)
  • そんなに違いはなかった(介護福祉士候補)

4.現在

看護師として働いている 11名
その他企業などで働いている 3名
無職(就職を探している、主婦など) 3名

《看護師として就労》

1.なぜ看護師の仕事を選びましたか

看護師としての教育を生かしたい
  • 看護師としての技術をもっているから
  • 看護の力を持っているから
  • 早く仕事につきたかったのと、看護の教育を受けているから
人を助ける仕事に喜びを感じるから
  • 医療の仕事をするのは喜び
  • 人の笑顔を作ることが(神の)願いである
  • 人を助けることができる仕事であるという喜び
  • 病気の人の看護をしたい
  • 人の手助けができるから
看護の仕事は価値があるから
  • 看護というのは、価値のある仕事だから
  • 大変価値のある仕事だから
  • 看護師の仕事はとても価値がある
さらに学びたい
  • 日本の生活や日本の病院のシステムをもっと学びたいので(日本人患者の多いクリニック勤務)
  • 看護の知識を常に得ていきたいから

2.日本で働いた経験は役立っていますか

全員が「役立っている」と回答した。
具体的に理由を記述していた回答は以下のとおりである。

  • 日本語が使えることが役立っている
  • 日本の文化や習慣を知っているので役立つ
  • 日本の規律や態度を学んだことが役立っている

3.日本の看護について、インドネシアの看護師に伝えたいことは何ですか

看護師の働く姿勢(規律正しさなど)
  • 働くときの規律・行動について
  • 日本の看護師は、意欲的で規律正しい
  • 仕事の規律
  • 標準手順に沿って働く
  • 日本の看護師の規律について学んだこと
  • 日本の看護師は、仕事をきちんとこなす
  • 日本の看護師はプロフェッショナルである
看護師の仕事への意識
  • 高い仕事についているという誠実さ
  • キャリアを積んで確実に発展させていく
  • より良い仕事をする
インドネシアとの違い
  • 日本の看護師は、パソコンを使って仕事をしていたのが違っていた
  • 日本の看護はとても進んでいる
  • 看護技術や仕事の仕方について(長所も短所も学んだことをそのまま伝えたい)

《看護師以外の仕事》

1.看護師以外の仕事を選んだのはなぜですか?

  • インドネシアの病院や施設についての就職情報がなかった
  • 勉強した日本語の力を使って仕事をしたかった
  • マネージメントの仕事がしたかった

2.どういう条件があればまた看護師として働きたいですか

  • 看護の力と日本語の両方を使って働きたい
  • 専門職としての力に見合った給料がもらえるなら
  • もし日本で働けるなら

3.看護師として、また働きたい気持ちがありますか

ある 2名
まだわからない 1名

【考察・まとめ】

 今回の質問紙調査は、看護について学ぶためのセミナー参加者を対象としたので、看護への関心の高い看護師が多く、EPAから戻った看護師全体の意識は反映していないかもしれない。しかし、いくつか興味深い結果が明らかになった。日本の看護に高い期待を抱いてEPAに参加したが、実際にはその看護体験ができる前に帰国している人がほとんどだった。また、日本での看護師の仕事を、インドネシアに比べて大変だと受け止めた看護師が多かった。また、学んだことは、具体的な看護内容ではなく、看護師の働く態度や意欲、意識などであった。これらをインドネシアで伝えたいと思っているが、実際には、体験のないインドネシア看護師に精神的な面を伝えるのは難しいことだろうと思われる。看護の仕事に対しては、大変誇りを持ち価値あるものととらえている看護師が多かった。日本滞在中の3年間で経験を積み重ねることができないため、看護技術が低下して帰国していることも考えられるため、今後、帰国後も看護師として仕事をするために何が必要なのかを模索していく必要があると思われる。